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関西プラッと便 室生寺と芸術の森を歩く

関西プラッと便

2014年6月27日掲載

  真夏を思わせる日差しが降り注いだ日、奈良県宇陀市の女人高野・室生(むろう)寺と標高約600メートルの室生山上公園芸術の森を訪ねました。写真家、土門拳が愛した山岳寺院と現代アートに彩られた森。不思議なコラボレーションですが、室生路に融合し、古寺とアートを巡るコースはカップルや家族連れに人気です。深緑に包まれた芸術の森で木陰に、たたずんでいると一陣の涼風が吹き抜けていきました。

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■写真家、土門拳を魅了した女人高野・室生寺
  近鉄大阪線・室生口大野駅で下車し、奈良交通バスに乗り換え、約15分で室生寺へ。境内の前には室生川が流れ、清流が俗界と聖域を区切っています。朱色の欄干が美しい太鼓橋を渡って境内に入ると、そこは、もう世俗から隔絶された雰囲気が漂っています。
  室生寺は、奈良時代末ごろまでに創建され、江戸時代に真言宗になり、山岳修行の道場として栄えた寺院です。古くから女性の入山も許されており、明治まで女人禁制だった高野山に対し、「女人高野」と呼ばれるようになりました。女人高野という優美な名で親しまれていますが、山門から奥の院までは700段以上の石段を上らなければなりません。山門の前で参拝を終えた信者に出会いました。額は汗びっしょり。でも、達成感からか、表情は穏やかでした。「しんどかったですか」と声をかけると、「大丈夫」と笑顔で答えてくれました。
  鎧(よろい)坂と呼ばれる急な石段を上ると、平坦な場所に出ます。そこに金堂(国宝)、弥勒堂(重文)が建ち、さらに少し、石段を上ると本堂(国宝)、その後方には五重塔(国宝)があります。ここで、最初の休憩を取りました。名物のシャクナゲの季節は過ぎましたが、堂塔をスケッチする人、三脚を立ててベストアングルをねらうカメラマンなど。いろんな人が、自然に包まれた寺の風情を楽しんでいます。
  写真家の土門さんは住職から雪の室生寺が一番だと聞き、雪景色を撮るため通いつめたという逸話は、写真ファンの間では有名なエピソードです。

■台風の大被害から甦った五重塔
  深緑の木立の中に浮かぶ五重塔は総高16.1メートル。屋外の塔としてはわが国で最小です。高さ50メートル余りの興福寺五重塔に比べれば、3分の1にも満たない大きさですが、石段の下から木立を借景にした塔を見上げると、存在感は際立っています。
  五重塔は1998年9月、台風7号の強風で倒れた杉の巨木に直撃され、屋根と軒が損傷する被害に遭いました。全国からの支援もあって、2年後に修理が完了し、甦(よみがえ)りました。余談になりますが、修復の際、奈良文化財研究所が塔の木材を年輪年代法で測定したところ、8世紀末に伐採した木材を使っていることが裏付けられました。
  感慨を込めて五重塔に手を合わせた後、いよいよ奥の院へ向かいます。まだ400段以上、急な石段が延々と続きます。途中、引き返そうかと思いましたが、杖を持った年配の女性がゆっくり、ゆっくりと後ろから上っていきます。まだ、若いのに「負けられない」と思い直して、踏ん張りました。野鳥の鳴き声、緑の木立が励ましてくれます。参道脇の山肌には天然記念物の暖地性シダ群生地など見どころも多く、気がつけば、もう奥の院に到着。寺の人が「休憩所があるので、疲れをいやしてください」と親切に声をかけてくれました。ささやかな気遣いに、すっかり元気づけられました。

■彫刻家、井上武吉さんが計画した理想郷・芸術の森
  太鼓橋の手前にある橋本屋旅館は土門さんが雪景色を撮影するため、投宿した旅館で、廊下には今も土門さんの作品が飾られています。旅館の食堂で昼食をとりました。ここの山菜料理はグルメに評判で、参拝客の満足そうな表情が印象的でした。
  さあ、次は室生山上公園芸術の森です。20分ほど山道を上ります。所長の曽良幸雄さんが出迎えてくれました。曽良さんによると、公園は地元出身の彫刻家、井上武吉さん(1930-97年)が国土庁の支援を受け、豊かな自然に恵まれた理想郷「アルカディア」をイメージして計画しました。井上さんは67歳で亡くなりましたが、親交のあったイスラエルの彫刻家、ダニ・カラヴァンさんが遺志を継ぎ、16回にわたって、当地を訪れて、2006年に完成しました。公共事業と芸術を結びつけた試みで、7.8ヘクタールの公園は光、水、空、風、土、鳥の声など森の自然がモニュメントと調和し、まさに、アルカディアのたたずまいです。

■湖に浮かぶピラミッドの島など現代アートのモニュメントが自然と調和
  公園に入ると、赤みを帯びたクリンソウの小さな花が風にそよいでいました。園内には2つの湖があります。第1湖には「鳥の島」「ピラミッドの島」「ステージの島」があり、橋を渡って、ピラミッド状のモニュメントの中に入りました。ここからは鳥も観察できます。湖のさざ波も絵になり、カメラでパチリ。
  散策道に戻って、進むと棚田が見えます。田植えが終わったばかりで、小さな苗が元気よく根付いています。日に日に成長し、これが周辺の景色に映え、アートに変わっていきます。そして第2湖へ。ここには「天文の塔の島」があり、太陽の塔と呼ばれるモニュメントが日時計の役割をしています。塔の中に太陽の光が入ってきます。光と影が織りなす光景は不思議な芸術です。そして、現代アートらしい「らせんの水路」「らせんの竹林」が続きます。
  さらに、レッドロビンの木を両脇に植えた「波形の土盛」の道があります。よく見るとの土盛がゆるく波打っています。道幅も入り口が広く、終点の「弘法の井戸」に近づくほど狭くなっています。遠近法を取り入れて、道を絵画的に構成しています。すれ違ったカップルが首をかしげていました。視覚のマジックで、長く見えた道が、実際は短かったからでしょうか。
  曽良さんのおすすめは遊歩道の散策です。ウッドチップで舗装した道ですが、表面にうっすらと苔(こけ)がむしています。歩くとフワフワとしたクッションが心地よいです。「モニュメントは言うまでもありませんが、遊歩道がよかったというリピーターがたくさんいます」と話していました。四季を通じて表情を変える芸術の森。標高600メートルのアルカディアは、時間の流れと暑さを忘れさせてくれました。

〈室生山暖地性シダ群落〉
  奥の院手前の参道の山肌にはイヨクジャク、イワヤシダ、ハカタシダ、オオバノハチジョウシダなど暖地性シダが群生しています。イヨクジャクやイワヤシダの生息としては、わが国の北限になり、1928年に国の天然記念物に指定されました。


〈橋本屋旅館〉
  1872年創業の老舗旅館。太鼓橋の手前にあり、土門さんの常宿としても有名。山菜料理、山芋料理は絶品。TEL0745・93・2056


〈井上武吉〉
  芸術選奨文部大臣賞を受賞した現代彫刻家。箱根彫刻の森美術館の設計を担当し、古里の室生に文化創造の思いをはせました。


〈ダニ・カラヴァン〉
  世界的な環境造形作家。都市や砂漠などの周辺環境を取り入れた壮大な野外作品で知られています。


〈室生龍穴神社〉
  室生寺の南東約1キロ。水の神として信仰され、神域には龍神がすむといわれる「吉祥龍穴」があります。神秘性を秘め、パワースポットとしても人気です。


〈アクセス〉
  近鉄電車の最寄り駅は室生口大野駅。奈良交通バスに乗って、室生寺停留所で下車。車は名阪国道・針ICか小倉ICから。針IC近くの道の駅には天然温泉もあります。


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