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関西プラッと便 大和郡山市・アジサイの矢田寺と金魚の町を歩く

関西プラッと便

2014年6月13日掲載

  梅雨時は空模様が気がかりで、ついつい外出も控えたくなりますが、色鮮やかに咲き誇るアジサイの花々を見れば、そんな鬱陶(うっとう)しい気分も払われます。1万株を超えるアジサイで彩られた奈良県大和郡山市の矢田寺を訪ねました。あいにく、小雨交じりとなりましたが、雨に煙る庭園のアジサイは時間のたつのも忘れさせてくれました。名刹で癒やされた後は、市内を散策して、金魚が観賞できるカフェで一休み。大和郡山市は初夏の季節が似合う町です。

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■花の色が次々に移ろうアジサイ寺で「諸行無常」に浸る
  近鉄郡山駅から奈良交通バスに乗って約20分。横山口の停留所で下車して、矢田寺へ向かいました。山門までは230段の石段があります。一段一段、踏みしめながら、時折、振り向くと、下界が次第に遠くへ離れていきます。山門をくぐると、もうすっかり、雑念が洗われたような気分です。矢田寺は約1300年前、大海人皇子(後の天武天皇)が壬申の乱の戦勝を祈願して矢田山に登り、即位後、智通僧正に命じて開いた寺です。最盛期には48の坊があり、現在も高野山真言宗の別格本山になっています。
  昭和40年代に、周辺が県立矢田自然公園に指定されたのをきっかけに、「寺を訪れる人に楽しんでもらおう」と本格的なアジサイ栽培を始めたそうです。今は「アジサイ寺」の名で親しまれ、新聞社などの『アジサイの名所ランキング』では、常にトップランクに選ばれる人気スポットです。約2万5000平方メートルの境内には「紫陽花(あじさい)庭園」や「見本園」があり、60種以上、1万株以上が植わっています。なかでも、約7000平方メートルの回遊式の紫陽花庭園は圧巻です。庭園には谷川が2本流れており、自然と絶妙に調和しています。朝夕にはホトトギスの美しい声が響き渡り、まさに、別天地です。庭園を歩くだけでも小1時間。途中、小雨が降ってきましたが、緑の葉にしたたる雨粒も一層、風情をかきたててくれます。
  矢田寺大門坊の前川真澄住職は「花の色が次々と移ろっていくアジサイは、諸行無常のイメージにつながり、仏教的な花との思いも込めています」と説明してくれました。庭園の脇の見本園では種類ごとに名札を付けて紹介しています。前川住職は「60枚の名札を用意したが、少し足りなかったので、実際は60種以上あります」と笑っていました。高齢者や足の不自由な人も満開のアジサイを楽しめるようにと、展望テラスもできました。満開時に、テラスから見下ろす光景は絵の具をちりばめたような美しさです。

■村上春樹さんのエッセーでも知られる矢田寺の精進料理
  アジサイは6月上旬から7月上旬ごろまでが見頃ですが、矢田寺では盆の頃に咲くタマアジサイなどもあり、秋の彼岸ごろまで楽しめる品種もあります。大門坊ではアジサイでにぎわう6月から7月上旬頃まで「あじさい弁当」という精進料理を味わうことができます。ゴマ豆腐やレンコンなどの素朴な料理で、「花を見て、お寺でゆっくりして、心を洗ってもらいたい」という願いを込めて弁当を提供してくれます。
  さて、矢田寺の精進料理は知る人ぞ知る逸品です。作家の村上春樹さんがエッセーで「野菜の煮物と酢のものと精進あげぐらいのものだ。でもこれが本当においしかった」(「群像」1983年1月号の『奈良の味』)と紹介し、これを読んだファンもたくさんいるようです。前川住職は「矢田寺には4つの宿坊があります。どこの精進料理のことを書かれたのか知りませんが、結構、知られるようになりました」と話していました。

■江戸時代の藍商家の屋敷「箱本館」で藍染め体験
  寺を出る頃には雨も上がりました。矢田寺は斑鳩・法隆寺方面と近鉄郡山駅方面の中間ぐらいに位置します。今回は近鉄郡山駅へ向かいました。バスを降りて約5分。手軽に藍染め体験ができる「箱本館 紺屋」を訪ねました。館の前には紺屋川という小さな川が流れており、コイが悠々と泳いでいました。
  館は江戸時代後期に建築された藍染商の建物を改修し、2000年に観光施設として再出発しました。館には4人のスタッフがいます。スタッフの田村佳代さんから説明を聞いていると、男性2人組が自前の白のTシャツを持って入ってきました。これを染めるそうです。奥にある体験工房まで案内してもらいました。館で用意したエプロン、ゴム手袋姿に着替えて、私もハンカチの藍染めに挑戦。藍染めスタッフの天野美香さんが指導してくれました。藍が発酵する臭いを感じましたが、すぐに慣れます。ハンカチの一部をゴムで留め、2分ほど藍液の入った瓶につけると、うっすらと茶ばんだ色になり、取り出すと、酸化して、次第に青色に発色します。洗って、漬けてと4、5回繰り返し、最後は薄い酢水で洗うと、約1時間半でできあがり。男性2人組のTシャツがかっこよく染まっていました。「よし、今度はシャツに挑戦しよう」と思いました。

■日本一の金魚の町で涼感を満喫
  箱本館の西側には、金魚の大きな飾り物を吊した「こちくや 金魚すくい道場」があり、ここで金魚すくいが体験できます。道場をのぞくと、親子連れが金魚をすくうポイを持って歓声を上げていました。お父さんの童心に帰ったような顔が印象的でした。続いて、近くの柳町商店街のきんぎょカフェ「柳楽屋」へ。金魚愛好家の憩いの場で、水槽で金魚が気持ちよさそうに泳いでいました。昭和末期に流行したインベーダーゲーム機を改良し、卓上をくりぬいて、そこに水槽を設置したテーブルもあります。テーブルの下で泳ぐ金魚を眺めながら、コーヒーを味わうのも粋なものです。
  次に近鉄郡山駅から南西約800メートルにある「郡山金魚資料館」(TEL0743・52・3418)へ足を延ばしました。商店街を南に抜け、踏切を渡って少し歩くと、水田地帯のようなのどかな風景が広がっています。水田のように見えるのは、実は金魚の養殖池です。大和郡山市内には約50ヘクタールの養殖池があり、全国シェアの約4割を占める年間7000万尾を生産しています。養殖池のあぜ道の向こうに「泳ぐ図鑑 金魚の水族館」の看板が見えました。やまと錦魚園が運営する金魚資料館です。30個の水槽には体長35センチ以上のジャンボオランダシシガシラ、尾が蝶のように見えるチョウビなど珍しい種類が泳いでいました。初夏を告げるさわやかな風が養殖池を吹き抜けていきました。

〈臨時バス〉
  6月29日まで、近鉄郡山駅とJR法隆寺駅から矢田寺行きの臨時バスが、運行されます。
問い合わせは奈良交通お客様サービスセンターTEL0742・20・3100

〈郡山城跡〉
  16世紀後半に筒井順慶が本格的な城に整備し、その後、豊臣秀吉の弟、秀長が居城。秀長の死後、城主は入れ替わり、18世紀に柳沢吉里が治めました。近鉄橿原線の車窓からも見える城の石垣は栄華をしのばせます。城跡には復元された追手門や柳沢家の氏神・柳沢神社があり、サクラの名所としても知られます。

〈箱本十三町〉
  秀長が城下町を整備した時、商工業種別に13の町を作りました。茶町、豆腐町、材木町、雑穀町、紺屋町などがあり、13の町は交代で治安、消火、伝馬を担当しました。当番の町には朱印箱が置かれ、「箱本」と書いた旗が立てられました。「箱本館 紺屋」(TEL0743・58・5531)がある紺屋町には、当時十数軒の紺屋が軒を並べていました。

〈全国金魚すくい選手権大会〉
  大和郡山市総合公園施設多目的体育館で繰り広げられる夏の風物詩。今年は第20回の記念大会になります。問い合わせ、参加申し込みは同市地域振興課(TEL0743・53・1151)

〈山本陶器店〉
  希少価値の高い食器類でマニアに知られています。店主の山本雅昭さんによると、「ダブルフェニックス」のマークを刻印したニッコーのコーヒー茶わん、食器作りから撤退しているTOTOの商品などが人気。戦前の統制経済時代に作られた子供茶わんなどもあり、一度、立ち寄ってみたい店です。柳町3丁目。TEL0743・52・2466

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