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関西プラッと便 芭蕉生誕の地、伊賀を歩く

関西プラッと便

2014年3月28日掲載

  今年は俳聖・松尾芭蕉の生誕370年。生まれ故郷の三重県伊賀市は〈風雅な旅〉に思いをはせる、俳句愛好家らで、にぎわっています。「よくみれば なづな花さく 垣ねかな」(芭蕉)。ゆかりの庵(いおり)に足を向け、ひっそりとたたずむ草花、鳥の声に、目と耳を澄ませば、一句浮かびそうです。感性をとぎ澄まして俳聖の里を歩いてみましょう。

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■「HAIKU」文学を凝縮した芭蕉翁記念館
  近鉄・伊賀神戸駅で伊賀鉄道の「忍者電車」に乗り継ぎました。車体には「くの一」ら忍者のイラストが描かれ、電車に乗り込む子供連れ、中高生らも楽しそう。ゆっくりと進む電車は、ローカル線のたたずまいにあふれ、この電車に乗っただけでも、ちょっとした旅情に浸れます。
  25分で上野市駅に。ここで、下車して、北へ向かうと上野公園があります。少し歩くと、「伊賀市は芭蕉翁を生んだ地です 翁は今や世界的詩人として仰がれ……」と書いた「芭蕉翁記念館」の看板が目に入ります。
  芭蕉は正保元年(1644年)に、現在の伊賀市に生まれました。帯刀を許された武士待遇の農民、松尾氏の出で、その生涯については多くの異説がありますが、若くして伊賀の侍大将・藤堂新七郎家に仕え、当主とともに俳句を学んだのが、出発点といわれます。
  世界的詩人と紹介されるように、今や「HAIKU」は海外でも知られています。駐日米国大使のキャロライン・ケネディさんも俳句に造詣が深く、演説に俳句を引用したりすることもあるそうです。
  記念館は建設会社、間組の元社長、神部満之助氏の寄付で建てられたものです。学芸員の人は「神部さんは伊賀の人ではなかったのですが、芭蕉の生誕地に是非、後世に残るものをと、寄付されました」と神部さんの心意気を説明してくれました。
  収蔵品には芭蕉筆の俳句や、知人に当てた書簡類などの関係品約3万点があり、俳聖の息吹が伝わってきます。生誕370年を迎えた今年は3月15日から6月22日まで、「芭蕉展前期―伊賀時代から更科紀行まで」展(無休)が催されています。「芭蕉の子供時代の資料から、俳人として地位を確立していくまでの足跡をたどり、芭蕉の真の姿に迫ります」と学芸員。芭蕉文学を支える地元の人たちの熱い思いが伝わります。

■芭蕉の旅姿をイメージした重文・俳聖殿
  記念館から公園内にある上野城に向かう途中に、ユニークな格好をした和風建築の「俳聖殿」が見えます。二層の塔のような建物で、なんだか人の姿にも見えます。
  「月日は 百代の過客にして 行きかふ年も また旅人なり」と紀行文学の境地を開いた芭蕉の旅姿のイメージを俳聖殿に託しました。上層の屋根は笠、その下にある木額が顔で、下層のひさしは蓑(みの)、回廊の柱は杖と脚を表現、確かに〈奥の細道〉を歩く俳人の姿に見えてきます。昭和前期に芭蕉生誕300年を記念して造った建物で、まだ100年もたっていませんが、その優れた意匠などから、国の重要文化財に指定されています。
  設計者は法隆寺の研究でも知られ、建築界で初めて文化勲章を受章した伊東忠太氏。地元出身の代議士、川崎克氏が建物の外観イメージを提案したそうです。そして、中には伝統の陶芸、伊賀焼で造った芭蕉瞑想像が安置されています。俳聖殿は伊東氏、川崎氏の豊かな個性が生み出した傑作で、その独創性は芭蕉の俳句にも、一脈通じるものがありそうです。

■忍者屋敷はびっくり仰天のからくりだらけ
  俳聖殿のすぐ近くには、「伊賀流忍者博物館」があります。せっかく伊賀路まで足を延ばしたのですから、やはり、忍者は必見。博物館の見学順路は「忍者屋敷」から始まります。江戸時代後期の伊賀民家を移築、復元したものです。忍者は普段、農業を生業にしていたので、一見、どこにでもあるような、農家です。入り口に立っていると、くノ一がすっと現れ、案内してくれました。名前は夢希さん。「忍者になって5年目」と教えてくれましたが、衣装もすっかり様になっています。
  夢希さんは最初に、居間にある「どんでん返し」と言われる回転式の戸を使って身を隠す技を披露してくれました。右手で板戸を軽く押すと、戸が1回転。素早く中に入ります。1回転した瞬間に両手で、戸の回転を止めないと板戸はさらに回ってしまいます。このタイミングは簡単なようでなかなか難しいです。夢希さんも研修を受けて練習したそうです。
  続いて、「隠し階段」、板の廊下に施した「刀隠し」など屋敷内はたくさんのからくりがあります。実際に生活していた屋敷なので、からくりはシンプルですが、実戦的です。敵が攻めてきたら、思わず、身を隠したり、戦ったりしたくなるようなリアリティーを感じます。博物館内には、ほかにも、忍者道具200点を展示した「忍術体験館」、忍者がどのように生活していたかを紹介する「忍者伝承館」があり、忍者グッズも販売しています。
  なかでも、大人気は「忍者実演ショー」(3月下旬~11月下旬は火曜日を除いて毎日実演。11月下旬~3月下旬は土・日・祝日のみ実演。料金は博物館入館料とは別)です。手裏剣から真剣の立ち回りなど、鍛え抜いた現代の忍者が実演してくれます。

■芭蕉ゆかりの庵で一句
  伊賀流忍者博物館を出て、再び、俳句の世界へ。上野公園から東へ歩いて10分ほどの町なかに芭蕉の生家がひっそりとたたずんでいます。昭和25年(1950年)に市に寄付され、「芭蕉翁生家」として公開されています。間口五間ほどの連子格子の町家風建物で、「松尾」と書いた表札が掲げられています。奥庭には「釣月軒(ちょうげつけん)」という草庵があります。当時の芭蕉の生活は決して楽ではなかったようですが、28歳の時、ここで最初の出版物となる『貝おほひ』を執筆。芭蕉文学の原点ともなった草庵です。生家には「古里や臍(へそ)のをに泣 としのくれ」「冬籠(ごも)り またよりそはん 此(この)はしら」の句碑が立っています。
  すぐ近くには『貝おほひ』を奉納した上野天神宮があり、「初さくら 折しもけふは よき日なり」という芭蕉の句碑もあります。
  芭蕉の足跡を今に伝えるもう一つの見どころは、上野天神宮から徒歩15分ほどの「蓑虫庵」です。芭蕉の門弟、服部土芳の草庵で、元禄元年(1688年)に、この庵開きをした際、芭蕉が贈った「みの虫の 音を聞きにこよ 草の庵」という句が名前の由来です。蓑虫庵の敷地内には芭蕉が脱ぎ捨てたわらじを土芳がもらい受けて、塚にしたといわれる「わらじ塚」、芭蕉の代表句の一つ「古池や 蛙飛びこむ 水の音」の句を揮毫した「古池塚」などあります。
  「草いろいろ おのおの花の 手柄かな」と花々をめでた芭蕉にちなんで、蓑虫庵の庭は草木で彩られています。3月末から4月にかけてはジンチョウゲ、シダレザクラ、リキュウバイなどが咲き、春夏秋冬にわたって、季節の花が入場者を楽しませてくれます。句心があれば、ここで一句浮かびそうです。

■池波正太郎も愛した伊賀牛
  わび、さびの世界にふれながら、伊賀路を歩くうちに心地よい、空腹感に襲われました。町なかの看板を眺めると「伊賀牛」の文字が飛び込んできました。そうです。作家、池波正太郎さんの著書『食卓の情景』でも紹介され伊賀牛の名は、食通にとどろいています。最近はステーキも人気ですが、王道は、やはり「すき焼き」。醤油と砂糖だけで味付けする関西風の店が主流だそうです。東西文化の境目にある三重県ですが、伊賀はやはり、関西の文化圏なのかと、うれしくなって、ビールを傾けながら、旅の疲れをいやしました。

[取材協力 一般社団法人伊賀上野観光協会]

〈公益財団法人芭蕉翁顕彰会〉
  芭蕉翁記念館(TEL 0595・21・2219)、芭蕉翁生家(TEL 0595・24・2711)、蓑虫庵(TEL 0595・23・8921)の芭蕉ゆかりの3施設を管理・運営しています。3施設の入場料はそれぞれ一般300円(高校生以下100円)ですが、3施設割引共通券(一般)は750円で購入できます。30人以上の団体入場料は3施設とも200円。

〈俳蹟めぐり〉
  上野市駅~芭蕉翁記念館~俳聖殿~芭蕉翁生家~愛染院~上野天神宮~蓑虫庵~上野市駅を訪ねる俳蹟めぐりコースは見学時間を含めて約3時間です。伊賀市内各地には約70基の芭蕉句碑が建立されています。

〈2014伊賀上野NINJAフェスタ〉
  4月5日~5月6日。忍者の衣装に着替えて町を歩けます。「ぷち忍者変身処」は上野シティホテルなど11か所あり、着替え料は大人、子供とも1000円。忍者衣装で伊賀鉄道の西大手~茅町の区間は無料乗り放題です。また、市内6か所で忍者道場が開催され、吹き矢や手裏剣などが楽しめます。ぷち忍者変身処、道場の場所、料金などの問い合わせは伊賀上野NINJAフェスタ実行委員会事務局へ(TEL 0595・22・9670。http://www.iga.ne.jp/~ninjafesta)

〈鍵屋の辻の決闘〉
  寛永11年(1634年)、渡辺数馬が義兄・荒木又右衛門ら助っ人とともに、弟を殺害した河合又五郎を鍵屋の辻であだ討ちした事件。「伊賀越のあだ討ち」とも呼ばれ、歌舞伎や人形浄瑠璃、映画などで語り継がれています。事件のあった鍵屋の辻は現在、史跡公園として整備されています。

〈伊賀焼〉
  日本6古窯の一つ。鍋などの日用食器が多く、国の伝統的工芸品に指定されました。

〈アクセス〉
  近鉄は伊賀神戸駅で伊賀鉄道に、JRは伊賀上野駅から伊賀鉄道に乗り換え。車は名阪国道上野東ICから伊賀市内へ。

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