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関西プラッと便 古都の師走を彩る春日若宮おん祭

関西プラッと便

2013年12月06日掲載

  2013年も残すところ、あとわずかになりました。あわただしい季節に、しっとりと落ち着いた古都を巡るのも、一味違った師走の過ごし方です。奈良は12月の声を聞くと、870年余り毎年、途切れなく続いている「春日若宮おん祭」一色に染まります。伝統行事に浸り、古い町並みを訪ねると、心も洗われます。おん祭を中心に、古都の歩き方を紹介しましょう。

地図

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■870年余り、途切れなく続く最古の芸能祭
  近鉄奈良、JR奈良の両駅が玄関口です。両駅には観光案内所があり、奈良巡りの目的を告げると、それに沿ったコースを教えてもらえます。この季節、寒さが身にしみます。奈良盆地は標高40~60メートル。四方を山に囲まれており、平地に比べると、日中は1、2度気温が低いだけですが、朝夕は、ぐっと、冷え込みます。しっかりとした冬の服装が必要です。
  今回の〈プラッと便〉は、おん祭です。まず、歴史から紹介しましょう。春日大社の摂社「若宮」の例祭として、平安時代・保延2年(1136年)に始まりました。大雨洪水、飢饉が相次ぎ、疫病が蔓延したため、関白・藤原忠通が神殿を造営して、御神霊を迎えて、民の救済を願ったのが由来です。霊験はあらたかだったようで、長雨洪水も治まり、以後、五穀豊穣などを願って、大和の国をあげて、盛大に行ってきました。
  幕末の混乱期や、第2次大戦中も途切れなく催されています。平安後期以降の芸能、風俗が集約され、わが国最古の芸能祭ともいわれます。国の重要無形民俗文化財の指定を受け、「春日若宮おん祭保存会」が守り継ぎ、今年、878回目を迎えます。

■お酒に合う菓子「意傳坊」を140年ぶりに復活
  おん祭は師走の風物詩として知られますが、夏の「流鏑馬定(やぶさめさだめ)」(7月1日)の儀式から、準備が始まります。そして、12月15日~18日にクライマックスを迎えます。
  初日の15日は、近鉄奈良駅から歩いて数分の餅飯殿通りにある大宿所で、「大宿所祭」が営まれます。ここは、江戸時代、おん祭に参集する大和士(やまとさむらい)が籠もって、精進潔斎する場所でした。午後2時30分、同4時30分、同6時の3回にわたって、「御湯立(みゆたて)」があります。笹の葉でお湯を降り注ぎ、お祓いする神事です。大和士が「お渡り式」に持つ長さ5.5メートルの野太刀やお渡り式の装束も展示されます。
  また、地元の人も協力して、「のっぺ汁」という郷土料理も振る舞ってくれます。昨年は老舗料亭「菊水楼」が、大和士がお渡り式の出発前、お神酒を飲む際に、食べた「意傳坊(いでんぼう)」というお菓子を140年ぶりに再現して、大宿所祭で披露されました。  意傳坊。一度、食べてみたいと思いませんか。もち米、ゴマ、小豆、山椒、ケシ、ミソを材料にしたもので、お酒にぴったりだそうです。春日大社・一之鳥居近くにある菊水楼では、同じ材料を使った味噌「好み居傳坊」を1050円で通年販売しています。冷え込みがこたえる時間になると、居傳坊を肴に、「ちょっと一杯」というのもおつですね。

■1000人の行列が練り歩くお渡り式
  16日は若宮で「宵宮祭」(午後4時~)。これに先だって「宵宮詣」があり、本社と若宮で平安時代から伝わる「田楽」が奉納されます。
  そして、いよいよ、17日を迎えます。しんと静まり返った午前0時。若宮の神様を一之鳥居近くにある「お旅所」へ遷す「遷幸の儀」が厳かに営まれます。参道は燈火が消され、参列者も懐中電灯すら灯すことができません。午前1時から、お旅所に遷られた神様に神饌を捧げ、神楽を奉納する「暁祭」と続きます。
  ハイライトの「お渡り式」は、正午に県庁前を出発します。平安後期から幕末までの時代装束をまとった約1000人が国道369号を西に下り、油阪を南に曲がって、JR奈良駅前へ。さらに、三条通りに入って、お旅所を目指します。約2.5キロのコースを2時間30分かけて練り歩きます。行列には馬約50頭も加わります。近畿地方の祭りでは、最高の頭数ということです。一之鳥居近くでは「競馬」や、馬に乗って矢を射る「流鏑馬」も行われます。
  カメラ好きは、お渡り式の前にコースを歩いて、撮影ポイントを決めましょう。県庁前、三条通りに面した興福寺南大門跡、一之鳥居付近など自分の目で確かめて、撮影場所を選んでください。カメラに興味のない人も、世界遺産が連なる一帯は歩くだけでも堪能できます。

■芸能史を凝縮したお旅所祭
  お渡り式の後、お旅所で行われる「お旅所祭」は、日本の芸能史を目の当たりにするようで、圧巻です。
  午後2時30分に始まります。祝詞の奏上などに続いて、各種芸能の奉納があります。社伝神楽、東遊(あずまあそび)、田楽、細男(せいのお)、猿楽(能楽)、和舞(やまとまい)、舞楽などが夜遅くまで繰り広げられます。そして、午後11時。神様を若宮に戻す「還幸の儀」が行われます。
  神様はお帰りになりましたが、翌日の午後2時からは「後宴能」も営まれます。お旅所の芝舞台で能2番、狂言1番が行われます。これでもか、これでもかというほどの伝統芸能の奉納です。愛好者にはたまりません。

■時間があれば奈良町巡りも
  4日間あるおん祭行事。泊まりがけで訪れるのもいいですね。少し時間があれば、大宿所のある餅飯殿通りから南へ足を延ばして、「奈良町」と呼ばれるゾーンを歩いてください。江戸時代末期から明治時代にかけての町家の面影が今も残っています。陰陽師が住んでいた「陰陽町」、元興寺境内の中心をなす「中新屋町」「西新屋町」をはじめ、「鶴福院町」「元林院町」「椿井町」などを総称して奈良町と呼んでいます。美しい格子構えの町家が軒を並べ、風情にあふれています。
  志賀直哉がエッセーで「奈良にうまいものなし」と書いたことから、奈良の食べ物は、美味しくないというイメージが定着していますが、近年はグルメファンに好評な店も急増しています。外観は町家の構えですが、フレンチなどを提供してくれる店もあります。
  そして、夜は興福寺や一之鳥居のライトアップも楽しめます。
  町を堪能した後は、土産物です。柿の葉寿司は全国ブランドになっています。また、〈きもかわ〉キャラクターで人気者になった「せんとくん」のグッズも各地で販売されています。見て、食べて、歩く。〈プラッと便〉好みの街です。古都の冬をゆったりと、楽しんでください。

【おん祭スケジュール】
15日午後2時30分~ 御湯立 大宿所祭
16日午後4時 宵宮祭
17日午前0時 遷幸の儀
   午前1時 暁祭
   正午   お渡り式
   午後2時30分  お旅所祭
   午後11時 還幸の儀
18日午後1時 奉納相撲
   午後2時 後宴能


〈奈良のっぺ〉
  のっぺは、全国各地に分布する郷土料理で、地方により作り方や呼び名が変わります。精進料理が原形といわれ、祭り、仏事、正月などの催事のおりに、作られることが多いようです。厚揚げを3センチ立方に切り、大根、ニンジン、里イモ、コンニャクをだし汁で煮ます。素朴な味わいが、美味です。

〈柿の葉寿司〉
  江戸時代頃に考案された押し寿司。一口大の酢飯にサバ、サケ、コダイ、アナゴなどの切り身をのせ、柿の葉で包んでいます。柿の葉には、抗菌作用や防腐作用があるといわれ、海のない奈良でも「寿司」が食べられるようになりました。近鉄沿線の主要駅でも販売され、土産としても重宝がられています。

〈せんとくんグッズ〉
  籔内佐斗司さんデザインの「せんとくん」は、2010年に開催の平城遷都1300年祭の公式マスコットキャラクターで、翌年から奈良県のキャラクターになりました。童子に鹿の角を生やしたようなせんとくんは「気持ち悪い」「可愛い」などの論争が起こり、〈きもかわ〉キャラクターとして一躍人気者に。キーホルダー、Tシャツ、キャップ、記念メダルなどになり、奈良市内を歩けば、せんとくんグッズがいたるところで目に入ります。話のネタとしても旅土産には、うってつけです。

〈奈良市観光協会〉
  公益社団法人奈良市観光協会が運用する施設・観光案内所を4か所紹介します。
  ◎奈良市観光センター(TEL:0742・22・3900)近鉄奈良、JR奈良の両駅から数分。やすらぎの道と三条通りの交差点にあります。▽観光パンフレットコーナー▽旅の思い出を記すスタンプコーナーなどがあります。開館時間は午前9時~午後9時。
  ◎奈良市総合観光案内所(TEL:0742・27・2223)寺院風屋根と鉄筋コンクリートを折衷した建造物として建築ファンに人気のあった「JR奈良駅旧駅舎」内にあります。▽案内▽情報検索▽展示▽休憩▽イベント観光の5ゾーンがあり、行きたい場所や観光ルートをパソコンを使って検索できます。開館時間は午前9時~午後9時。
  ▽案内▽情報検索▽展示▽休憩▽イベント観光の5ゾーンがあり、行きたい場所や観光ルートをパソコンを使って検索できます。開館時間は午前9時~午後9時。
  ◎近鉄奈良駅総合観光案内所(TEL:0742・24・4858)大きなせんとくんの人形が迎えてくれます。チラシ、パンフレット類を始め、県内全域を外国語で案内してくれるコーナーもあります。開館時間は午前9時~午後9時。
  ◎JR奈良駅観光案内所(TEL:0742・22・9821)JR奈良駅改札口のすぐそば。窓口で奈良市内の観光地図がもらえます。開館時間は午前8時30分~午後5時。


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